どんな選手がNBAドラフトの指名対象となるのか、いつもドラフト予習で自動エントリーとかアーリーエントリーとか海外選手とか書いてるけど、それってつまりどんな選手のことなのか、という話です。
2023年7月1日に新しいCBAが発効されたため、ドラフト関連でもいくつかの取り決めが変更になりました。
この記事は元々2017年版のCBAに基づいて2022年に書いたものだったので、2023年版CBAに沿った内容に更新しました。
記事中の英文引用は、NBPAのサイトに掲載されているCBA(Collective Bargaining Agreemen)の資料からのものです。
▷2023 NBA-NBPA Collective Bargaining Agreement(PDF)
英語はあんまり得意ではない上に、日本語に翻訳するのは更に苦手なので、訳文はChatGPTにもちょっと手伝ってもらいました。 とはいえ訳文イマイチかと思うので、原文も併記しました。理解が違っているところがありましたら、ご指摘いただけると助かります!!!
ドラフト指名されるチャンスは1度だけ
大前提として「一度もドラフト指名の対象となったことのない選手は、NBAと契約したりNBAでプレーすることはできない」というルールがあります。
No player may sign a Contract or play in the NBA unless he has been eligible for selection in at least one (1) NBA Draft.
ARTICLE X, Section 1
そして、いかなる選手も2回以上ドラフト指名の対象となることはありません。チャンスは1度だけです。
No player shall be eligible for selection in more than two (2) NBA Drafts.
ARTICLE X, Section 1
International Palyerとは
NBAのドラフト指名対象となるために必要な条件は、米国選手とInternational Palyer(海外選手)で若干違いがあります。
海外(米国以外)出身選手の中には、海外のチームでプレーしている選手もいれば高校時代から米国内でプレーしている選手もいます。
生まれは海外で、過去には米国内でプレーしてたけど、直近は海外でプレーしていたなんて場合もあり、事情はさまざまです。
NBAドラフト対象としての「International Palyer」とは、以下の条件にあてはまる選手を指しています。
(i) 少なくともドラフト前の3年間、アマチュアまたはプロとしてバスケットボールをしながら、米国以外に恒久的に居住していた
(ii) 米国の大学に入学したことがない
(iii) 米国の高校を卒業していない
(c) For purposes of this Article X, an “international player” is a player: (i) who has maintained a permanent residence outside of the United States for at least the three (3) years prior to the Draft, while participating in the game of basketball as an amateur or as a professional outside of the United States; (ii) who has never previously enrolled in a college or university in the United States; and (iii) who did not complete high school in the United States.
ARTICLE X, Section 1
たとえば、米国以外の国で生まれ育って、米国以外の国籍を保持していても、米国の高校や大学などでプレーしていた選手は、NBAドラフト対象としては「International Player」という扱いにはなりません。
逆に、米国生まれでも、3つの要件を満たせば「International Player」となります。
これはあくまでもドラフトのルールとしての扱いです。
ドラフトの対象となる資格について「米国国籍の場合」「海外国籍の場合」みたいに書かれているものをしばしば見かけますが、必ずしもそうではないということになります。
この記事では便宜的に「米国選手」「海外選手」と書いていますが、前述の条件をふまえると適切ではないですよね…ドラフト予習では「NCAA組」っていういう書き方をすることも多いんですが(それもまた厳密には適切ではないんですが)、今回は対比がわかりやすいように「米国選手」「海外選手」という書き方をしています。
NBAドラフトの指名対象となるための条件
全員が必ず満たしていなければならない「必須条件」と「どれか1つ満たしていればよい条件」の2種類があります。
必須条件
米国選手は以下の(A)(B)両方、海外選手は(A)のみが必須条件となります。
(A) そのドラフトが開催される年(暦年)に、19歳以上にならなければならない
(B) 海外選手ではない場合、高校卒業から少なくとも1NBAシーズンが経過していなければならない
The player (A) is or will be at least nineteen (19) years of age during the calendar year in which the Draft is held, and (B) with respect to a player who is not an “international player” (defined below), at least one (1) NBA Season has elapsed since the player’s graduation from high school
ARTICLE X, Section 1
高校を卒業していない場合、2017年版のCBAでは「高校を卒業するはずだった時点から」1NBAシーズン経過としか書かれていなかったのですが、2023年版のCBAではもう少し詳しく書かれています。
もし高校を卒業していないなら、最初に高校に入学した時と最後に高校に在籍していた時のいずれかの卒業予定のうち、遅い方から少なくとも1NBAシーズンが経過している必要がある。
(or, if the player did not graduate from high school, since the later of the graduation of the class with which the player would have graduated based on the high school class he was in when he (i) first enrolled in high school, or (ii) was last enrolled in high school);
ARTICLE X, Section 1
これはたぶん、高校入学後に学年変更(早期卒業予定に変更)したけど、卒業する前に高校辞めてプロになったとかそーゆーケースを想定してるんじゃないかなーと勝手に想像してます。
よく「高校を卒業してから1年経過していなければいけない」と言われていると思うんですが、実際は1年ではなく1NBAシーズン(one NBA Season)です。
この場合の「NBA Season」は、トレーニングキャンプの初日からNBAファイナルの最終日までと定義されています。
(ooo) “Season” or “NBA Season” means the period beginning on the first day of NBA training camp and ending immediately after the last game of the NBA Finals.
ARTICLE I, Section 1
どれか1つ満たしていればよい条件
前述の必須条件を満たした上で、以下(A)〜(G)のいずれかの条件を満たしている場合に、ドラフトの指名対象となります。
(A) 米国の四年制大学を卒業している、もしくはドラフト年に卒業予定で、大学でのプレー資格が残っていない
(A) The player has graduated from a four-year college or university in the United States (or is to graduate in the calendar year in which the Draft is held) and has no remaining intercollegiate basketball eligibility;
ARTICLE X, Section 1
(B) 米国の四年制大学に在学中もしくは過去に在学していて、元のクラスを卒業しているかドラフト年に卒業予定で、大学でのプレー資格が残っていない
※(B)がどういうケースを指しているのかイマイチわからないんですが、これってつまり学業的には卒業したけど、プレー資格がまだ残ってる…とかですかね…この条件についてちゃんと理解できていないので、訳文も適切ではないと思います……
(B) The player is attending or previously attended a four-year college or university in the United States, his original class in such college or university has graduated (or is to graduate in the calendar year in which the Draft is held), and he has no remaining intercollegiate basketball eligibility;
ARTICLE X, Section 1
(C) 米国の高校を卒業しているが、米国の四年制大学には入学していない選手で、高校卒業から4年(暦年)が経過している
(C) The player has graduated from high school in the United States, did not enroll in a four-year college or university in the United States, and four (4) calendar years have elapsed since such player’s high school graduation;
ARTICLE X, Section 1
(D) 米国の高校を卒業していないが、卒業するはずだった時から4年(暦年)が経過している
(D) The player did not graduate from high school in the United States, and four (4) calendar years have elapsed since the graduation of the class with which the player would have graduated had he graduated from high school;
ARTICLE X, Section 1
(E) ドラフト年に22歳以上であり、直近の1月1日以前にNBA以外のプロバスケチームと契約をし、その契約に基づいてプレーをしている
(E) The player is or will be at least twenty-two (22) years of age during the calendar year of the Draft, has signed a “non-NBA professional basketball contract” (defined below), and has rendered services under such contract prior to the January 1 immediately preceding such Draft;
ARTICLE X, Section 1
(F) ドラフト年に22歳以上になる海外選手である
(F) The player is or will be twenty-two (22) years of age during the calendar year of the Draft and is an international player;
ARTICLE X, Section 1
(G) ドラフトでの指名を希望するということを、ドラフトの60日前までにNBAが書面で受理している(アーリーエントリー選手)
(G) The player has expressed his desire to be selected in the Draft in a writing received by the NBA at least sixty (60) days prior to such Draft (an “Early Entry” player).
ARTICLE X, Section 1
(A)〜(F)は、いずれかの条件にあてはまった時点で自動的にドラフト指名の対象となります。 まだドラフト指名対象にはなりたくない!と思ったとしても、有無を言わせずドラフト対象です。
(G)がいわゆる「アーリーエントリー」です。必須条件は満たしているけど(A)〜(F)にはあてはまらない、でもドラフトにエントリーしたい!という場合は(G)の手続きをすればドラフト指名対象となることができます。 米国選手でも海外選手でもアーリーエントリーは可能です。
2023年版CBAで大きく変わった点
どれか1つ満たしていればいい条件の(E)が、2023年版CBAで大きく変わったところです。そこだけもう1回書いておきますね。
(E) ドラフト年に22歳以上であり、直近の1月1日以前にNBA以外のプロバスケチームと契約をし、その契約に基づいて仕事をしている
新CBA締結の前に各チームにメモが回ったとかで話題になってたこれ↓が、この(E)です。
個人的にはOTEやイグナイトのコたちなんかが自動エントリー対象じゃなくなるっていうのが一番興味深い
— リエ / Rie (@noisebox) April 18, 2023
NBA-NBPA memo outlines new NBA draft selection requirementshttps://t.co/71SoBQ9oTl pic.twitter.com/xSYy1oY51I
2017年版CBAではこの項目は、米国選手の場合は「世界のどこかのNBA以外のプロチーム」、海外選手の場合は「米国内のNBA以外のプロチームと選手契約を結んでプレーしている」という違いがあり、22歳以上という年齢の条件は含まれていませんでした。
そのため、「どこかの国(米国も含む)のプロチームと契約した米国選手」や、「Gリーグと契約した海外選手」などは、契約した翌年のドラフトの自動エントリー対象となり、たとえ22歳未満でも高校卒業から4年経っていなくても19歳になったばかりでも、アーリーエントリー対象の選手のように、エントリーを見合わせることもエントリーを撤回することもできませんでした。
今回2023年版CBAでの変更で、NBA以外のプロチームと契約をしていても高校卒業してから4年経過するか22歳にならない限りは、自動エントリーの対象にはならない…つまりドラフトで指名されるためには(G)のアーリーエントリーが必要になります。
これは、海外のプロチームでプレーしている海外選手と同じ条件になったということでもあります。
例えば、Gリーグ イグナイトのロン・ホランドくんが2024年のドラフトにアーリーエントリーせずにドラフト対象にならないことも可能になるということです。 ホランドくんは2024年中に19歳になるので、2017年版CBAでは有無をいわせず自動的に2024年のドラフト対象となっていました。
アーリーエントリーを撤回できるのは2回まで
アーリーエントリー選手には、ドラフトの10日前までにNBAへの書面での通知により、そのドラフトから撤退する権利があります。ただし、2回を超えて撤回することはできません。
(c) An Early Entry player who is eligible to be selected in the next NBA Draft pursuant to Section 1(b)(ii)(G) above shall be entitled to withdraw from such Draft by providing written notice that is received by the NBA ten (10) days prior to such Draft. A player shall not be entitled to withdraw from more than two (2) NBA Drafts.
ARTICLE X, Section 8
2015年まではNCAA側のルールで、アーリーエントリーを撤回してカレッジに戻れるのは1度だけでした。2016年以降、NCAA側のルールとしてはカレッジ在学中に毎年エントリーできる(何度でも撤回できる)ルールに変更されています。
参考: Council changes date for students to remove names from NBA draft – NCAA.org
でも、NBA側(CBA)で前述のルールが定められているために、撤回できるのは2度までとなっています。
前述の「ドラフトから10日前までに〜」というのは、あくまでもNBA側のエントリー撤回期限です。エントリーを取り下げてカレッジに戻ってプレーする場合は、NCAAが定めたルールや撤回期限にも従う必要があります。
以上ざっくりとですが、ドラフトの指名対象になるための条件をまとめてみました。
記事中の英文引用は、NBPAのサイトに掲載されているCBA(Collective Bargaining Agreemen)の資料からのものです。
▷2023 NBA-NBPA Collective Bargaining Agreement(PDF)
理解の間違ってるとこなどありましたら、ご指摘いただけると助かります!ブログのコメントでもこちらのフォームからメール送っていただいても大丈夫です!
ところで、2023年版CBAではドラフトに関してもうひとつ大きな変更がありました。事前にかなり話題になっていた、ドラフトコンバインへの参加が必須になるという点です。
次回…かどうかはわかりませんが、そう遠くないうちにその部分についても書いておきたいです!
※2024.3.13 追記
ちょうどよい例があったので。
先日、ボビ・クリントマンくんが2024年のドラフトにエントリーするとの報道がありました。
クリントマンくんはスウェーデン出身です。過去にスウェーデンのプロチームでプレーしていたことがあり、今季(2023-24)はオーストラリアのNBLでプレーしていましたが、2021-22は米国の高校、2022-23はNCAAでプレーしているので、NBAドラフトでの扱いとしてはInternational Playerではありません。
2023-24はオーストラリアでプロ選手としてプレーしているので、エントリーするドラフトの「直近の1月1日以前にNBA以外のプロバスケチームと契約をし、その契約に基づいて仕事をしている」のですが、今年(2024年)に21歳になったので(22歳になるのは2025年)、新CBAでは自動エントリーの対象とはならず、書面でのエントリー(アーリーエントリー)が必要になります。
コメント